機関誌「花みずき」

わたしの「花みずき」職業体験

ヨーク在住 小西さん

「どこから来はったの?」

 私がこのグループホームに初めて来た日から最後の日まで、繰り返し聞かれ続けた質問でした。「イギリスから来たんです」と答えるたびに、「えっ!!」「本当に!?」と毎回目を丸くして、まるで初めて聞いたかのように新鮮な反応を見せてくれるおばあちゃんおじいちゃんを見るのが、毎日の私の楽しみでした。

 この夏、私は「花みずき」で5日間職業体験をしました。私が行ったのは「ふじ」と「れんげ」で、それぞれを1日交代交互に行きました。私はイギリスに住んでいます。イギリスでもグループホームにボランティアとして行っていたことがあるので、認知症がどのようなものかは知っていました。私の中ではなんだか「怖い」「可哀想」というイメージがありました。しかし今回の職業体験を通して、随分とその印象が変わりました。

 元々恥ずかしがり屋の私にとって、体験1日目はもちろんとても緊張するものでした。しかしながら、スタッフの方々を始めご老人のみなさんもとても快くフレンドリーに迎えて下さいました。明るいおばあちゃん達と話している間に、私の緊張もほぐれていきました。何を話すにも真剣に楽しそうに話す姿を見ていると、とても幸せそうで今を楽しんでいるように見えました。印象的だったのは2人のおばあちゃんが、私の将来について一緒に語り合ってくれたことです。まさかここに来てそんな話になるとは思わなかったのですが、お二人とも私に沢山アドバイスをしてくれました。「人は十人十色だから大変な人とも付き合っていかなくてはいけない」とか、私が医学の道に進むなら「個人病院をして欲しい」など、人生の先輩からの色々な考えを聞くことが出来ました。家族以外で自分の将来について話したことがなかったので、他の人の意見が聞けて将来の事に少し自信が持てました。てっきり私はここに彼女達の面倒を見に来ていると思っていたのに、私の方が面倒を見てもらっていました。

 それから数日の間に、沢山面白い話を聞きました。ヨモギ餅の作り方の次には、娘さんが看護師になるまでの話などなど、言ったらきりのないくらい。みなさんとっても個性的な方ばかりでした。自分の歳を忘れてしまって、教えてもらうと毎回とても驚き大笑いする元気なおばあちゃん。何を言っているかはわからないけれど、熱心に話し掛けてくれるおじいちゃん。中には最初そっけない感じで黙りこんでいたけれど、次お会いすると沢山喋り掛けてくれたおばあちゃんもいました。本当に様々な方達に出会うことが出来ました。

 さて、ここで日英のグループホームの似ているところ、違うところについて、気付いたことを書きたいと思います。私がイギリスでボランティアをしたグループホームは「Age UK」というイギリスの慈善団体でした。英国内だけで、150以上の施設があるそうです。「花みずき」を訪れた時、第一印象では「Age UK」ととても似ているように思われました。くつろげる部屋におじいちゃんおばあちゃんが向かい合う机に座り、人数は10人未満。最初に飲むのは紅茶。こんなにも似ているものなのか、と最初は驚きました。まったりしながら世間話を楽しみ、聞こえてくるクラシック音楽を懐かしそうに聴くイギリスのグループホームで見た光景と、「花みずき」のご老人達の佇まいがどこか重なりました。私は「花みずき」に来た時、日本人とイギリス人とでは文化が全然違うから、性格も受け答えも全く違うに決まっていると思い込んでいました。でも実際は、そうではありませんでした。日本でもイギリスでも、おじいちゃんおばあちゃんはまるで昔から親しかったかのように話してくれるし、何より楽しそうで目がキラキラ輝いていました。

 「花みずき」1日目ではそのくらいしか発見が無かったのですが、日が経つにつれ違いも見えてきました。私が一番日本とイギリスの違いを感じたのは、スタッフのご老人との接し方です。日本ではスタッフとご老人は、きっぱりとケアする側とされる側に分かれているようでした。ご老人をいたわって優しく面倒を見、静かに接しているようでした。それに比べイギリスでは、歳に関係無くスタッフもご老人もみんな対等という感じで距離感が近く、誰でもストレートに物を言うようでした。私はどちらにも良さがあると思います。どちらが良いとか悪いとかでは無く、その国の文化や考え方に合った方法があり、人への接し方も違うものなのだなと興味深く思いました。 

 もう一つ違いがあります。「花みずき」に来てから2日目、私はスタッフの方々がしっかりしていて何をやるにも手慣れていると感じました。そこで1人のスタッフの人に「ここのスタッフの方はみんなボランティアではなく、職業としてこの施設にいるんですか?」と尋ねました。その人は、「スタッフはみんな仕事として働いていて介護の免許を持っている」ということを教えてくれました。イギリスのグループホームでも、仕事として働いているスタッフもいましたが、ほとんどの人はボランティアでした。そのせいなのか、グループホーム内で特にケアについてのルールや強い注意点も無く、それぞれがそれぞれのやり方でご老人に接していました。朝の10時から夕方の4時くらいまでボランティアとして働ける、そのボランティア精神に感心しました。でも日本のスタッフの丁寧さ、手を抜かない仕事ぶりを見て、職業として責任を持って働いているからこそできることもある、と感じました。責任があるからこそ、やりがいもあるのだろうなと思います。スタッフの方同士とても仲良く和気あいあいと楽しそうで、私の中で仕事というものはお堅く笑顔の無いイメージでしたが、新しい職のあり方を知れたように思います。

 では次に、私が「花みずき」で特に気に入ったことを書きます。
それは、何かをみんなでやるという共同の活動があったことでした。七夕が近かったのでみんなで短冊を書いたのですが、おばあちゃん達のほとんどが他の人の幸せや健康を祈っていました。さっきまで大笑いしていたのに「自分が今も元気に生きていられるのはみんなのおかげ」としんみりした口調になって、そんなことも考えていらっしゃるのだなと思いました。笹の葉の飾り作りでは、のりで折り紙を貼るのが難しいと言いながらも結構なスピードで完成させる方もいて、その器用さに驚かされました。

 また、歌の先生が来て下さった時は、ほとんど喋らないおじいちゃんが楽しそうに歌い出したり懐かしそうに笑う姿も見られました。びっくりしたのは卓球です。最初、こんなにボールが早いスピードで飛び回るのに出来るのかしらと心配でした。でも、私は間違っていました。ボールを机からほとんど落とすこと無く打ち続けるおじいちゃんおばあちゃんは活気づいていて、とても上手いんです。こういった活動を通して、色んな方の意外な一面を見ることが出来ました。とても楽しそうだったので、イギリスにももっとあったら良いのにと思いました。

 グループホーム「花みずき」で私は沢山のことに気付きました。一番よかったことは、高齢者や認知症の方に対してポジティブなイメージが出来たことです。短い期間でしたが、実際に現場に入りコミュニケーションを取ったり、一緒に何かすればこそ得られたものだと思います。同時に、認知症というものをとても身近に感じ、祖父母もそうなってしまうのかという考えも浮かびましたが、今は以前ほどそれを悲しいと感じなくなりました。それは、「花みずき」のおじいちゃんおばあちゃんの前向きで幸せそうな姿を見せてもらえたからだと思っています。

 最後に、今回私にこの貴重な体験をさせて下さった大頭先生、喜多さんや事務の方、そして「ふじ」と「れんげ」のスタッフのみなさんとおじいちゃんおばあちゃん、他にも直接会ってはいないかもしれないけれど私を受け入れて下さったグループホーム「花みずき」の皆様に感謝しています。本当にありがとうございました。

イギリス暮しの小西さんがすばらしい体験記を届けて下さいました。日英での高齢者の暮し方の違いも楽しく語ってくれています。高齢者や認知症という状態へのイメージが大きく変化したことも伝えてくれています。 少しでもお年寄りとの触れあいが楽しくなるケアのプロとして、これからも頑張って下さい。(大)